ウクライナ戦争と今後の情勢を概観するためのリーダブルな入門書 ――豊島晋作(2022)『ウクライナ戦争は世界をどう変えたか――「独裁者の論理」と試される「日本の論理」』KADOKAWA
テレビ東京がテレ東BIZのyoutubeアカウントで連載的に制作している『豊島晋作のワールドポリティクス』という番組がある。ロシアによるウクライナ侵攻(本書ではイラク戦争やベトナム戦争など、戦地に由来させる目的でウクライナ戦争という表記を使用している)が始まる前から様々な番組を制作していたが、侵攻が始まる前から危機感を共有していた貴重な番組でもあった。
一人の視聴者だった筆者は、確かに冬のオリンピックが終わると情勢が動く可能性はある。しかし2022年にそうした「熱い戦争」をロシアのような大国が起こすのだろうか、という純粋な疑問があった。本書はこうした多くの人が持っていたであろう疑問に答えるところから始める親切さがさすがニュースキャスターだなと感じた。
豊島は東大の法学政治学研究科の修士を出てからテレ東の就職している、政治学をベースにした記者志望の局員だ。これまでロンドンやロシアに駐在しながらWBSなどのテレ東の経済番組で様々な情報提供をしており、現在は平日朝の経済番組、モーニングサテライトを担当している。そのため、経済に強いキャスターのイメージが個人的には強かったが、本書では学生時代の専攻が国際政治だったことも明かしており、番組制作や本書の執筆はもしかしたら本懐だったかもしれない。
本書の要点をいくつか述べると、まずは前述した疑問に答えるところからスタートして、ロシアが実際に侵攻するに至った要因を丁寧に分析しているところだ。最新の情勢をアメリカがいかにキャッチし、そしてその情報をどのように公開してきたか。また、プーチン個人の歪んだ思想はどこから由来しているのか。ウクライナとロシアの歴史的な関係はどのようなものなのか、などである。こうした、この戦争を理解するための最低限の基礎知識を書籍、論文、英語記事など豊富な情報ソースから提供することに力を注いでいる(そのため、参考文献が非常に充実している)。
また、後半にはロシアの話題から少し離れて他国の論理を解剖することにも注力している。例えばNATO加入を決めたフィンランド、最近でも台湾情勢を刺激続けれいる中国、そして中国やロシアといった旧東側の大国のすぐそばに位置し、西側の大国であるアメリカの同盟国である日本。こうした国家がどのような論理でロシアを見ており、今後どのような政治の展開を見せるのかを考察している。
少し前に侵攻から半年経過したことで、メディアには再び小泉悠や東野篤子、兵頭慎治といったこの分野の専門家の顔を見る機会が増えた。同じタイミングで豊嶋と小泉の対談動画がテレ東BIZにアップロードされており、こちらも見応えがあるものとなっていた。
戦争開始から時間が経ち、全体の報道量が減っているため自分自身含め一般市民の関心が低下しがちなのも事実だろう。そのため、いま改めてこの戦争を概観し、これからの国際政治の情勢に「備える」ために、リーダブルな入門書に仕上がっている本書は格好の一冊となっている。
[2022.9.3]