あとがきによると、斜線堂がまだ大学生だったころに本人の思い付きと友人の提案( 「一日一本小説を書くのを百日続けられたら一食を奢る」 )によってTwitter上で展開された企画である。2018年~2020年の間に投稿されたものから250作を厳選して今回収録されている。
投稿を続けた斜線堂は知名度を挙げ、2019年には120話が宝島社文庫でまとめられているようで、今回はその増補版、アップデート版と言ったところだろう。2016年にはメディアワークス文庫賞を受賞してメディアワークス文庫からデビュー作を出している(その後も複数冊刊行している)ためすでにプロ作家ではあったが大学生という状況(知名度はないが、時間は十分にある)もあり、この企画に至ったようだ。
自分が斜線堂の名前を知ったのは2023年の『百合小説コレクション wiz』(河出文庫)がきっかけなのでまだ日が浅いが、それ以前の彼女の「勢いの良さ」を感じられる作品集に仕上がっていると思う。同じく河出文庫から刊行された本書にはそれぞれ文庫の1ページで完結する掌編が収録されている。すべて合わせて250編であるため250ページに渡って展開されている。
本書収録の掌編は内容として「私と先輩の物語」という共通点は持つものの、それ以外の共通点は持たない設定だ。私は女性っぽいが、先輩の性別は分からない。はっきりと男性と明示されている掌編もあるがそうではないものが大半であるため、作者お得意の百合小説(集)として読むことも可能だろう。不純文学というだけあり、「私が先輩に恋愛感情を抱いている」も共通点かと思うが、恋愛感情以上の感情を持っている場合もある。
小説によっては不純文学というより不条理文学と言ってもいいような展開を見せており、先輩の身体は頻繁に破壊されている。先輩が殺害される場合もあれば、事故に遭う場合もある。首だけの先輩を私が会話するときもあれば、首のない先輩が存在する時もあるし、先輩が複数存在する時もある。などなど、多かれ少なかれリアリティを超越した存在が先輩という対象である。
その、一見するとリアリティを失った存在に見える先輩を、私は愛しているし、執着している。その対象は先輩であればよく、先輩というアイデンティティを失っていないのであれば、姿かたちが変わっても、複数になっても、あるいは時空を超えていても良い。先輩が年を取らない、という設定もあってそれだともはや先輩ではないわけだが、「どういう状況になっても先輩を愛する」という執着の強さはどの掌編にも生きている。
作家に関わらず物書きはにとって重要なのは、「書き続けられること」であるわけだが、それは容易ではない。だが、だからこそ斜線堂が試みたような遊び心的な取り組みが表に出てくるのはとても楽しい。いまは名前の知れたプロ作家だが、そのプロ作家の「作られ方(メイキング)」がこの一冊の文庫に詰まっているからだ。
リアルタイムで画面上で追う楽しさもあっただろうが、メイキングオブ斜線堂有紀、としてこの小説を楽しめることが現代の読者に与えられた楽しさ、いや快楽と言ってもいい感情であると思う。
[2025.2.12]