介助について語る語る語る ――立岩真也(2021)『介助の仕事――街で暮らす/を支える』ちくま新書

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立岩さんが新書で新刊を出すと知ったのは今年の冬だったと思うが、これまで長くて厚みのある著作が多い中、どういった内容をどういった形で語るのかが気になっていた。著作をすべて読んでいるわけではないので印象も含むが、なるほどこれは立岩真也にしか書けない新書だなといった構成になっている。

「序」で書いてあるように、本作はその中心的なイシューになっている重度訪問介護の従事者養成研修の講師として語ってきた内容を中心にまとめた一冊となっている。よって、全編に渡って「書く」や「記述する」というよりは、「特定の人々に対して語り下ろす」といった形の文体になっているし、内容もその主旨に沿ったものとなっている。

たとえば「第1章 ヘルパーをする」や「第2章 いろんな人がヘルパーをする」とあるように、ヘルパーをすること、とりわけ重度訪問介護従事者として、重度障害者(障害支援区分の4~6にあたる。数字が大きいほど重度)の支援をする人/しようとする人/したい人/興味がある人に向けて書かれている。途中からは読者に対してあなたもヘルパーをしてみませんか? 具体的に語り掛ける。

よって本書の内容は制度やサービスの解説(それらの罠や穴も含めて)といった一般的な福祉の本に書いてある内容から、時給の話や勤務体系の話、求人や施設の探し方であったり、実際どのような人(年齢、性別、国籍etc.)がヘルパーを務めているのかまで含めた具体的な内容に踏み込んでいく。

介助や介護を受ける側の語りや分析は、研究書やノンフィクションやニュース記事などで記述されることはあっても、なかなかここまで具体的に踏み込んで支援者側の像を結ぼうとすることは珍しい印象を受ける。とはいえあくまでこれらは立岩真也が普段から実践していることの一つであり、彼らしさが本の中に詰まっているに過ぎないのだろう。

ここまでの内容が最初に書いた講師としての講義内容と重なる部分で、本書の真骨頂はその先、つまり第7章~第9章にある。もちろんこれ以前の章の内容と重なったり引き継いだりしていることもあるので、この後ろ3章分だけが突出して目立っているわけではない。

日本の障害者、とりわけ重度障害者の歩んできた歴史を踏まえて書かれた第5章(この章は立岩社会学の醍醐味と言うべきだろう。短いながら内容の密度と熱量はさすがである)は第7章における国立療養所の歴史への言及ともリンクする。また、相模原事件やALS患者の安楽死を取り巻く問題(NHKスペシャルの問題や、医師による自殺ほう助の事件)といった最近のトピックに対する言及は、今まで組み立てて来た「介助とはどのような営みなのか」といった理解がなければ十分に行き届かない。

短い分量ながらこれまで積み上げて来た立岩社会学のエッセンスを惜しみなく投入し、密度を濃くすることで、「介助」という営みを具体的に浮かびあがらせている。そうすることで多くの人やメディアが関心を寄せる社会問題にも言及していることには大きな意義がある。

特に相模原事件以後はメディアの取材に応じていることも多い立岩であるが、そこで話す、語る内容はどうしても限定される。だから、比較的一般の人も手に取りやすい新書という形で立岩社会学の内容を届けることには、これだけ多様性が叫ばれる時代だからこそなおのこと意義があることだろう。

もちろんそうであってもそうでなくても、マイノリティの人々に対するまなざしや彼ら彼女らの生活保障や権利擁護がなされなければ豊かな民主主義社会とは言えない。介助についてとにかく語ることによって立岩は彼の構想する社会の実現を強く期待しているのだろう。そうした熱い思いをも感じる一冊だった。

[2021.5.9]

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バーニング
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Written by バーニング

90年生まれ。アイコンは@koyomi_matsubaさんデザイン。連絡先:burningsan@gmail.com

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