光文社未来ライブラリーから刊行されているノンフィクションを一つずつ読んでいるが、これもタイトルが気になって購入した。原題は”CURIOUS”なので、まさに「好奇心」である。直球の英語タイトルを長い日本語タイトルにしてしまうのは邦訳あるあるだが、この場合は邦訳も本書の内容の核心をとらえている。
「子どもは40000回質問する」ことの意味は、一つは子どもは好奇心の塊だということである。もう一つ重要なのは、親のかかわり方と、教育だ。子どもが質問をするためには、その前にまず親が質問を子どもに投げる必要がある。親の質問に子どもが答えるやりとりが、反転して子どもが親(を含めた他者)に質問をするようになる、という説明だ。
教育が重要な理由はいくつか述べられているが、詰め込み教育にも一定の重要性があると指摘している。言われてみれば当然だが、ある程度の基礎知識や教養がなければ深い質問はできない。多くを知っていることで、自分が何を知っていて、知らないのかが区別できる。そうして好奇心が生まれ、質問が生まれる、という流れだ。
好奇心こそが人類を進化させたという、海部陽介ばりの展開でそもそも本書はスタートしている。海部のような人類学ではなく、あくまで進化心理学や発達心理学の立場からの仮説ではあるが、好奇心が人間を駆動させるということは、逆に人間は好奇心という目に見えないものをいかに活用すればよいのかが重要になる。とりわけビジネスの場面では必須とも言える要素だろう。
インターネットが存在する現代では、知識や情報を得ようと思えばいくらでも得られる時代だ。かつての知の巨人たちには想像もできないくらい、好奇心を知識の収集と活用に転用できる時代である。逆に言えば、スマートフォンで情報をすぐ得られることによって、人間は情報に飽きている(あるいは疲れている)時代でもある。また、子どもの好奇心も育った家庭によって差が見られる(本書では「好奇心格差」という言葉が使用されている)という。
好奇心と向き合うときに、直面する課題は多い。とりわけ過去の人類が直面しなかった新しい情報環境の中で人間(子どもを含む)の好奇心をいかに育て、いかに活用してゆくのかは、今後も多くの分野で関心を集めることになりそうだ。
[2022.6.20]