3つのアプローチで発達障害を持つ女性を理解、支援する――川上ちひろ・木谷秀勝編著(2019)『発達障害のある女の子・女性の支援 「自分らしく生きる」ための「からだ・こころ・関係性」のサポート』金子書房

バーニング
Jun 26, 2020

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仕事に絡めて心理学、障害者支援関係の本を継続的にいろいろ読んでいるが、知的障害や発達障害を持つ女性を対象にした専門的な支援の本はそう多くない。以前ADHD女性の支援について書かれた中島美鈴の著書を読んだが、彼女のように女性の発達障害者(中島の場合はADHD女性についての著作が多い)を対象にした臨床や研究がもっと増えたらいいなと素朴に感じた。

本書は発達障害の中でも主にASD女性に多くの量を割いており、幼少期から思春期、成人期を経て中年期まで、射程は広い。その射程の広さだけでも得難いものが多く読みごたえがあったが、副題にある通りからだ(身体)、こころ(メンタル)、そして関係性といった3つのアプローチをとっているところも非常に実践的である。

先日受講した公認心理現任者講習会でも初回面接やインテークの際にクライアントの心理状況や行動だけでなく身体症状にも目を向ける必要がある(そしてそのための知識や技術が要求される)と教えられたが、支援の現場にいると言語能力が様々な障害の言葉の訴え身体の痛みなどの訴えを読み取るのは難しい。技術的には前回書評を書いた市原真の著作のような方法が求められるのだろうが、それ以前に支援者と利用者間の信頼関係も重要である。だからこそ、「こころ」を理解するため、「こころ」に迫るためには「からだ」と「関係性」からのアプローチが欠かせない。

編者の一人である川上ちひろは思春期を迎えた発達障害者の性行動に関する著作や研究が(その性別にかかわらず)多く、本書でもその知見が多分に展開されている。男性の支援者は女性や少女の、女性の支援者は男性や少年の性に関する行動や認知への対応が困難な場面も珍しくないが、本書ではケースの検討が多く収録されており、どのようなポイントを抑えて支援する必要があるのか、行動の背景にはどういった要素が考えられるのかが具体的に記述されている。

例えば「からだ」からのアプローチであればASD女性特有の身体感覚の理解が必要になるし、「こころ」からのアプローチであれば月経前のASD女性が一般的な女性以上感覚過敏になることでメンタルが不安定になりがちであると解説されている。周囲の同級生との葛藤やいじめ、あるいは親との不和などは「関係性」からのアプローチで見えてくるものがあるかもしれない。

このように「からだ・こころ・関係性」の3つのアプローチで幼年期、思春期を経て成人になり、その後就労や結婚、出産、あるいは離婚や老いといったライフイベントを加齢に従って経験していく。そうした過程のケースをすべて網羅しているわけではないが、当事者や家族の声であったり、触法行為などの二次障害への支援について、また当事者同士のセラピーやプログラムの紹介など、後半は内容が多岐にわたっている。

厚い本ではないため、いずれの内容にしてもポイントを踏まえながらの支援策の検討をしているにとどまってはいるが、最初に書いたように発達障害者女性の支援についてここまで射程が広く書かれている本は非常に実用的だと言ってよいだろう。

「からだ・こころ・関係性」の三つのアプローチは性別や障害関係なく応用できるアプローチである。その意味では、ASD者を直接支援していないとしてもASD女性を例にとってみるとこういう支援ができる、というケースの総体として読むべきところが多い。

最後の対談では「自分らしく」といった視点が重視されており、発達障害者の自己決定権やジェンダーの視点も盛り込まれている。こういった着眼点については、いまの時代にこそしっかり読まれるべきだろう。

[2020.6.27]

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90年生まれ。アイコンは@koyomi_matsubaさんデザイン。連絡先:burningsan@gmail.com

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