カウンセリングを行う人、必要としている人双方にとって有意義な入門書 ――伊藤絵美(2005)『認知療法・認知行動療法カウンセリング CBTカウンセリング 初級ワークショップ』星和書店

バーニング
4 min readMay 24, 2020

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認知行動療法、とりわけコーピングやスキーマ療法で名の知れている伊藤絵美が書いた認知行動療法の入門本。実際のワークを書籍化する構造をとっているため、非常に読みやすい。最初の方に認知行動療法の源流を探るための理論的な(あるいは心理学史的な)話題が展開されているがそれ以降はほぼ実践に特化した本といってよい。

私自身が認知行動療法の専門家でもなければそもそも心理学を独学で学んだ人間のため、その心理学史的な文脈の話題も興味を持って読んだが、そこを底辺の足場にしつつ認知行動療法の導入を進めていくところがとても良心的であると率直に感じた。

なぜこのようなことを書くかというと、あくまで初学者かつ独学者の雑感ではあるが、近年の認知行動療法の隆盛に伴って心理療法の中で認知行動療法の存在感がやたら大きく感じる時があるからだ。もちろん認知と行動の双方に関連してアプローチするという手法はプラグマティックで使いやすいし、アンガーマネジメントなどはビジネスの世界でも一般化してきている。ただ認知行動療法が最強ではないだろうし、クライアントの状況によって使い分けていく上での手段の一つでしかないはずだ。(だが実際に公認心理師のテキストを開くと認知行動療法のページがやたらに多い)

話がそれたが、伊藤は認知療法と行動療法にまず分けて心理学史的にワークショップを進めていっている。それは認知行動療法の基本モデルを説明する際に、「認知」と「行動」の間に「気分・感情」や「身体」といった要素を付け加え、アセスメントの際にはこの円環的なモデルでクライアントの置かれた状況を理解することを提案している。

これらがまず第1章の流れで、ここまでが大きなくくりでいうとイントロダクションといったところだろう。ここが土台の部分になるので、この1章の理解が伊藤の認知行動療法を理解し、読者が実際に使うための重要な箇所となるように感じたし、先ほどの円環モデルもページが進むとさらに話題が具体的に展開されていくのが実践的である。

続く2章と3章で「基本原則」と「基本スキル」を紹介し、4章と5章でそれぞれ事例を検討していく。2章は認知行動療法というよりはカウンセリングを行うための基本原則ととらえながら読んだ。3章の基本スキルに関しても「認知行動的」なスキルには違いないが、コミュニケーションのスキルであったり質問のスキルであったり、日常的にも応用できる話題が多い。個人的には心理教育のポイント(とりわけ自分の中にある自動思考の理解)や、ソクラテス式質問法についての言及を面白く感じた。

伊藤のカウンセリングのゴールはクライアントがセラピーを終了したあとにセルフケアをできるようになることだ。それはつまりこの本は心理療法家だけでなく、クライアントのためにも書かれてあると言ってよいのではないか。この分野に興味がある人だけでなく、実際に悩みや問題を抱えている人や対人関係やコミュニケーションに困りごとを抱えている人にとっても、この本は良心的に響くだろう。2005年に刊行と少し古いものもその後も順調に版を重ねており、様々な人にこの本が「使われている」ことがよく分かるし、2020年以降も十分に「使える」入門書であろう。

[2020.5.24]

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Written by バーニング

90年生まれ。アイコンは@koyomi_matsubaさんデザイン。連絡先:burningsan@gmail.com

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