カジュアルかつガチに本をレコメンドされ続ける快感 ――三宅香帆(2017)『人生を狂わす名著50』ライツ社

バーニング
Oct 14, 2021

--

ツイッターでもつながっていて時々交流している書評家の三宅香帆が、京大の修士にいたころに出版したのが本作。現在は東京で会社員と執筆業を兼業している彼女だが、当時は文学を専攻する大学院生でありながら書店員としてもアルバイトをしており、両者の経験が本作の出版につながったようだ。冒頭からクライマックスのような勢いで、50種類の本を三宅は語り下ろしていく。(あくまでも本書は「書く」よりも「語る」の方が適していると思う。この理由は後述)

本書の面白いところは、まず時代やジャンルの縛りがないところだ。まずジェイン・オースティンの『高慢と偏見』について語り、次はサリンジャーに進みつつ、その次は村上春樹に有川浩が来る。そのまましばらく小説が続くがサマセット・モームの『月と6ペンス』を挙げたあとは若桑みどりが登場する。

その後も小林秀雄や真木悠介といった人文系の本が来たと思ったら後半は漫画の紹介が続き、杉浦日向子や山岸涼子と並んで水城せとなも紹介するというラインナップである。また、最後の最後は夏目漱石『こころ』とカズオイシグロ『わたしを離さないで』で本書を締め括っているのもよい。恋愛、そして生と死は文学の永遠のテーマであり、人生そのものでもある。

本書がこうした個性的なラインナップになっているのは、三宅が「私にとって、読書は、戦いです」(p.7)と記していることからもわかるように、彼女自身の人生の遍歴であり、戦いの記録なのだからだということだろう。そしてその人生のなんと豊穣なことか。他方で、タイトルに「人生を狂わす」ともあるように、いくらか自虐的でもある。本ばっか読んできた私のこと、ちょっとまともじゃないと思うだろうけどね! とでも言われているかのようだ。

そうしたカジュアルなノリでありながら、推薦文そのものはもちろんガチンコである。それはさっき書いたように本書は彼女の戦いの記録であり、彼女自身がこれまで多くの本にガチンコで対峙してきたことを表しているともお言える。名著50とタイトルにあるが、1作の紹介が終わったあとに追加で3作がレコメンドされているため、結果的に本書には200種類の本が紹介されていることになる。この熱量はおそろしいとも言えるし、同時にその熱量が本書を読み進める快感にもなった。

教室にいる、本にやたら詳しい女子のクラスメイトから「昨日こんなの読んだんだけど!! ちょっと話聞いて!!」と終始話しかけられているような文体は非常に気持ちいい。ゆえに本書は書かれた、というより語り下ろされた、といった方がおそらく適切だ。著者である三宅香帆の生きてきた人生もいくらか想像しながら、合計390ページ分の語りをどうぞ存分に読んでほしい。

[2021.10.14]

--

--

バーニング
バーニング

Written by バーニング

90年生まれ。アイコンは@koyomi_matsubaさんデザイン。連絡先:burningsan@gmail.com

No responses yet