オースティンの3作目。出版の時期は後になっているものの、書き始めたのは早く、実質的な処女作に位置づけられるようだ。日本で有名なのは『高慢と偏見』だが、長さや読みやすさという意味では本作からオースティンに入門してもよいだろう。
これまでの2つの長い長編(『分別と多感』、『高慢と偏見』)はある姉妹を軸にした婚活小説であったが、本作は地方に住む10代のヒロイン、キャサリンや彼女が旅先で親しくなる男女を巻き込んだラブコメといったところだ。とはいえ幸せな結婚がゴールに設定されており、そのための条件が地位や年収や資産であるところは共通している。
主人公キャサリンの性格は少し独特だ。少女時代は身体を使って外で遊ぶのが好きだった彼女は、作家の地の文でヒロインに向いてないとバッサリ評価される。周囲が気をもんで本を与えると、今度はたくさんの小説を貪り読む文学少女になる。小説で描かれる出会いや恋愛を空想したり、旅先で親しくなった女性、イザベラと一緒に部屋で小説を読みましょうと誘う程度にはオタク気質を身につけている。
イザベラはしかし、あまり好意的なキャラとして描かれていない。彼女は美人ではあるが逆に言うと見かけだけの軽薄な存在でもあり、プライドが強い。このイザベラと対照的に登場するミス・ティルニーと比べると、イザベラの軽薄さは際立つ。そしてこのミス・ティルニーの相性がエリナーだというのがポイントだろう。エリナーは『分別と多感』の主人公であり、どちらのエリナーも長女であり、そしてどちらのエリナーにも分別がある。
ゆえに、というわけではないかもしれないが、どの男を選ぶかの前に、どの女と関係を深めていくことが自分の人生において価値が大きいのか、といった選択をキャサリンは迫られるようになる。ただ、キャサリン自体はまだまだ人生経験の浅い10代だ。だからこそ、キャサリンがイザベラと仲良くしていたとしても、それはそれとして作家は書き込んでいる。
『分別と多感』のマリアンが様々な男や女と出会い、多くの裏切りや挫折を経験したほどのヘビーさはないものの、キャサリンがいろいろな人と出会っていくこと自体を作家の目線を通して追いかけるのが本作の醍醐味だ。田舎の女の子だったキャサリンが、どのように大人になってゆくのか。そうしたドキュメントでもある。(つまり、一つのドキュメントを完成させるために生み出されたのがキャサリンというキャラクターかもしれない)
一人の少女の青春を堪能し、そして彼女が大人としてはばたくのを見守る。そうした読書体験が、ユーモアやコミカルさたっぷりに味わえる。まさに、ラブコメとしてよくできた小説である。
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[2021.6.30]