愛したい、別れたくないという気持ちの切実さ ――パク・サンヨン(2020)『大都会の愛し方』(訳)オ・ヨンア、亜紀書房

バーニング
Jan 20, 2021

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亜紀書房の「となりの国のものがたり」シリーズ一冊目の配本となったチョン・セラン『フィフティ・ピープル』以降、過去4冊読んでいて今回が5冊目。このシリーズだから意識的に手にとっているというよりはここ数年意識的に韓国文学に読んでいる中で自然と、といったところだが、今回読んだパク・サンヨンもなかなか読み応えがある、エキサイティングな一冊だった。

クィア小説やゲイ小説というカテゴライズをされているのがパク・サンヨンの小説のようだが、ゲイ小説を書くから、クィア小説を書くから作家自身もそうだとカテゴライズされることには違和感があるようだ。確かにそれはそうで、異性愛を書く作家のセクシャリティが小説と一緒に紹介されることはない。ただ、レズビアンやゲイをテーマにする作家は、そういう形で見られがちな側面もある。

日本だとレズビアンを題材にした優れた小説を書き続けている作家に李琴峰がいるが、彼女も彼女自身のセクシュアリティやジェンダーを過剰に、あるいは間違った形で紹介されることを忌避する発言を以前されていた。私たちの社会において、異性愛ではない種の物語を書く作家に対して、偏見がまだまだ存在するということがよく分かる。

翻ってパク・サンヨンは、本書のあとがきの中でこう述べている。「ただひたすら自分自身でありたいと思いながらも、同時に僕が僕であるということを受け入れがたかった」(p.254)と。本作には4つの短中編が収められているが、主人公の名前はいずれもヨンであり、小説を書いている。確かにこうした意図的な設定は、自分自身でありたいという思いの表れにも見える。フィクションの世界だからこそ、現実とは違う、現実にはなかった自分の姿を書きたいという欲求と、その辛さ(フィクションはフィクションであって現実ではないということ)も併せて4つの小説の中に垣間見える。

巻頭の短編「ジェヒ」は、ジェヒと言うかけがえのない女友達との笑いあり、涙ありの青春ストーリーだが、ゲイのヨンがジェヒとどれだけ親密になっても一線を超えることはない。その代わり、恋愛に奔放なジェヒに代わって彼女の彼氏への別れのメッセージをヨンが代筆するというエピソードがあるくらいだ(ゲイであるヨンは、彼氏との縁の切り方を心得ている)。しかし他方で、一線を超えることがなく、どこまで行っても友達の関係を超えていけないことへの苦悩も垣間見える。ジェヒの存在が、ゲイの自分にとってどれだけ大切だったか。「親密な女友達の結婚式」ほど切実な舞台はないかもしれない。

他にも表題作の「大都会の愛し方」を非常に面白く読んだ。「ジェヒ」に似ているのは、ある一人の存在を人生を賭けるほど大事に思う気持ちだ。結婚式ではなく、職業のキャリアの違いが二人を分かつところ、そして国境を越えてそれが現実化していくところはリアルだなと感じたし、遠くに行く恋人をいつまでも思い、手放したくないという思いは、ありふれているかもしれない。それでもこの小説の中に書かれているロケーションの変遷と相まって、その感情に寂しさがつのっていく。

誰かを愛したいという気持ち、そして誰かと別れたくないという気持ち。喜びと悲しみ、愛情や友情。人生の、特にまだ若いころに大事なものがぎゅっとつまっている、優れた一冊だ。

[2021.1.21]

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Written by バーニング

90年生まれ。アイコンは@koyomi_matsubaさんデザイン。連絡先:burningsan@gmail.com

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