タイトル通り、カウンセリングに関する実践が多分に含まれているが、他方でカウンセリングの理論や歴史に当たる部分にも目配せがされており、全体的にかなりまとまりのいい本になっているように思えた。フロイト以降、長い間スタンダードとされて来た50分の意義とその見直し、多忙な現場はあるいは50分では負担を感じる中で30分間で工夫しながらできることをそれぞれの立場、現場の視点で探っていく試みはとても創造的だろうと思うし、状況によっては直接対面すること自体が難しいまさに今の時代こそ特に必要な試みかもしれない。
先述したように、フロイトとその娘によって実践されてきたカウンセリング(フロイト的に言えば精神分析)のスタンダードが、100年以上経った今でも引き継がれていることにやや驚きを受けた。筆者が以前受けたカウンセリングは初回50分、2回目以降が30分だったと記憶しているため、本書に記載されている50分と30分をいずれも経験したことになるが、そもそもなぜ50分になったのか、30分ではなぜ短く感じるのか。あるいは、頻度の問題、つまり週に何回程度のセッションを行うのが良いのかなど、現実的には時間と頻度は様々であることも医療や教育など、様々な現場の視点から書かれている。
なぜ50分のカウンセリングが続けられてきたかは前半部分で詳述されているのでここでは多く触れないが、カウンセリングの様々な現場では時間と頻度の葛藤が常にあること、その上で副題にもある「短時間臨床」が模索、実践されていることがよく分かる。公認心理師が誕生して数年経ち、心理職が教育や司法など様々な現場で臨床に当たることが要請されているが、その具体的な方法論はまだまだ練りあがっている段階なのだな、とも感じる。
だからこそ、この本で書かれているように教育の現場、精神看護の現場、あるいは独立したカウンセリングルームの現場など、具体的な実践を掘り下げることで見えてくるものをいかに方法論としてフィードバックしてゆくことが重要なのだろう。カウンセリングと一言で言っても、例えば7章で紹介されているようにソーシャルワークの現場では「面接」と表現することが多いし、クライアントの内面を掘り下げるよりは制度や社会資源を利用していかに多職種、多機関で関わっていくかが重視されることが多い。かといってそうしたソーシャルワークに精神分析や心理療法的な側面が不要なわけでもなく、むしろそれらを付加することによってより価値のあるソーシャルワークの実践にもつながるのではないかとも考えられる。
そしてそうした価値を足すためには、他の職種、他の現場での実践を知って置いた方がよい。その方がずっと視野が広くなり、見通しも開けてくる。「多職種で考える」という副題には、単にそれぞれの職種の人たちがケースを提示するという以上に、職種間の相互理解を促進するという印象を強く受けたし、本書の編集にそうしたエッセンスが多分に詰まっているようにも思えた。実際に忙しく働いている現場の専門職の人たちにとって、短時間かつ多職種で、という本書のねらいは現実的に、かつ有用なものとして響くだろう。
[2020.10.26]