前作を読んだのがいつか思い出せないくらい久しぶりにシリーズの続きとなる本作を読んだが、久しぶりに読む計と潮の絡みは単純に面白く(二人のそれぞれの二面性の書き分けとかも含めて)2020年にアニメ映画になったことでこのシリーズの一般的な知名度も少し増えればいいかなと改めて思った。
「ザ・ニュース」のキャスターを担当する計と映像作家の潮との関係が順調に続く中、裏番組としてジパングテレでは「ニュースメント」(ニュースとエンターテインメントを組み合わせた番組名)がスタートする。真裏にぶつけてきたこの番組は、やがて「ザ・ニュース」の視聴率を脅かすようになり、計の番組における立ち位置もちょっとずつ変化していく。
「お仕事もの小説」としての読みごたえがまずいくつかあって、現実の世界でもそうだがニュース・報道番組は時間帯が近い番組が多く、常に視聴率を取り合っている状況だ。新興の番組はそれだけで注目を集めやすく、それがうまくいけば飛躍する可能性もある。逆に言うと、長く続く番組は常に新しくやってくる後続と戦って勝っていかなければ長寿番組にはなりづらい。
「ザ・ニュース」での役割が変化することによって計のイライラは予想通り高まっていくところは面白いし、その中で計がどのように振舞うかを読むのもまた面白い。危うさと真剣さが常につきまとう計の二面性が、潮との性行為以外の場面でも多く拝むことができる。潮との出会いから成就までを書いた前作に比べるとその要素をスキップできる分、より二人の内面とその変化にフォーカスしているのも本作の魅力の一つだろう。
「ザ・ニュース」の行く末と計の挫折と成長がうまくリンクするからこそ、小説としての面白さが生まれる。「ニュースメント」の方も新興であるがゆえの失敗を経験する。これで何かが終わるわけではないし、そういうことがつきものだということを一穂ミチは観察した上で小説に仕立てているのだろう。
スピンオフや番外編含め今もまだ続いているシリーズだけに、計とその周辺がどのように変化していくのかを楽しみにして見守っていきたい。挫折を経験して強くなっていく計の姿と、その計をしっかりと受け止める潮の姿はとてもいい。
[2021.1.28]